「孤将」の翻訳者、蓮池薫氏   11/20/17

80歳を過ぎた横田さんご夫妻の記者会見を見る度、涙が浮かぶ。
久しぶりに会見に出られたご主人は、娘を一目見るまではの一念で生きている様子が伝わってくる。

帰国された被害者の一人、蓮池薫氏の翻訳本の中の一冊に、「孤将」と言う題名の本がある。
これは朝鮮の李舜臣将軍による綿密に練られた作戦の下、豊臣秀吉軍の日本勢と朝鮮軍の海上における壮烈な戦いが無駄のない文章と見事な日本語で書かれている。
戦もしたことがない無能な王の取り巻き達に作戦を阻まれ、挙句の果てに「王の命令に背く反逆者」として牢に繋がれ足腰立たない拷問を受け、息子を戦死させ敬愛する老いた母親をも死なせてしまい、父親そして一人の息子としての苦悩が見事に表現されている。
ぐいぐいと引き込まれ食事中も読みふける始末だった。

今年の7月に85歳で亡くなった韓国人の友人、恵英さんのため一冊余分に購入をして差し上げた。
彼女は終戦の12歳まで植民地の韓国で日本語教育を受け、アメリカに住むようになった後も日本文化、日本文学をこよなく愛し、亡くなるまで日本から文藝春秋を取り寄せ愛読していた。
幸い私と読む本の好みが全く同じで、二人で読後感を話し合うことを楽しみにしていた。

この「孤将」は蓮池氏が名付けたもので、韓国の著名な作家である金薫氏による原題は「刀の詩」となっているが、孤将の方がしっくりくる。
これだけでも蓮池氏が感受性の豊かな人間であることが判る。

前にも書いているが、恵英さんが「愚かにも漢字を廃止した韓国では全てハングルで書かれています。つまり日本の平仮名を読むようなものです。そのため出てくる沢山の人物名、土地や昔の品々などの漢字名を探し当てる作業には、膨大な時間を費やしたことでしょう。今の韓国人では、もう出来ません。ベストセラーとなった金薫氏の韓国語版よりも、蓮池さんの方が文章力が優れ何倍も面白く書かれています。」と感銘し、韓国人であるが故、二冊の本を比較でき、日本人には気づかない事柄を指摘された。

「この事を蓮池さんに、知らせてあげましょうよ。」と、しり込みする恵英さんに半ば強制的に勧めると「12歳までの日本語ですから。」と恥じらいながら、優しい字体で日本語の手紙を書かれ、私が住所を探して投函をした。
間もなく氏から、恵英さんと私宛にそれぞれ直筆で返事を下さった。
とても心のこもった内容で、恵英さんは「誠実なお人柄ですね。」と感謝をして何度も読み返していた。
その勢いに乗って、韓国の金薫氏にも私に黙って手紙を出したそうだが、返事は全くなかった。
「無意識で、蓮池さんの翻訳本の方が優れていると書いたでしょう。」とからかうと、お腹を押さえて大笑いをしていた彼女の姿が懐かしい。

Cambridgeに住む86歳の韓国人男性の友は、この文禄・慶長の役を「朝鮮征伐」と言うので「韓国人から殺されますよ。」と冗談を言うと「でも、植民地時代、僕たちはこう習ったのですから、つい口に出てくるのです。」と言う。

   一気に冬となる
「孤将」の翻訳者、蓮池薫氏   11/20/17_d0024276_80344.jpg

   三年前に帰国をされたS新聞社のSさんから連絡がありCafe Sushiに行く。
   韓国の新聞社から目の敵にされており事あるごとに「極右のS新聞がまた戯言を
   言っている。」と罵られているから笑ってしまう。
   店主からの美味しい突き出しに感激する彼に「私と一緒だから出してもらった
   のよ。一人だと、絶対に食べられないものなのだから私に感謝しなさい。」と
   奢られる身分で彼に恩をきせる。
   そこに「そうですよ。他のお客様には出しません。」と日本人女性のウェイトレス
   が加勢をしてくれた。
 
by arata-tamiko | 2017-11-21 08:30 | 諸々の出来事


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